自衛隊の行動の地理的範囲

 日本政府は自衛隊が我が国の防衛を目的とした活動を行うことについて、地理的な制限が存在するとの見解を発表している。そこでこれらの見解を基に、自衛隊が我が久野を防衛するための活動を行うに際し、如何なる場合にどのような範囲で自衛隊の行動について制限がかかるのかということについて考察する。

昭和56417日衆議院楢崎弥之助議員

質問主意書に対する答弁書

 我が国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することのできる地理的範囲は、必ずしも我が国の領土、領海、領空に限られるものではないことについては、政府が従来から一貫して明らかにしているところであるが、それが具体的にどこまで及ぶかは個々の状況に応じて異なるので一概にはいえない。

昭和441229日参議院春日正一議員

質問主意書に対する答弁書

ア 自衛隊法上、自衛隊は、侵略に対して、わが国を防衛することを任務としており、わが国に対し外部からの武力の攻撃がある場合には、わが国の防衛に必要な限度において、わが国の領土・領海・領空においてばかりではなく、周辺の公海・公空においてこれに対処することがあっても、このことは、自衛権の限度をこえるものではなく、憲法の禁止するところとは考えられない。

イ 自衛隊が外部からの武力攻撃に対処するため行動することができる公海・公空の範囲は、外部からの武力攻撃の態様に応ずるものであり、一概にはいえないが、自衛権の行使に必要な限度内での公海・公空に及ぶことができるものと解している。

昭和60927日森清議員提出憲法第9条の解釈に関する質問に対する答弁書

我が国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することのできる地理的範囲は、必ずしも我が国の領土、領海、領空に限られるものではなく、公海および公空にも及び得るが、武力行使の目的をもって自衛隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。

以上の政府見解では、一貫して武力行使を目的とした公海及び公空への派遣は認めている。その一方で、「武力行使の目的をもって自衛隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されない」としていることがわかる。

ところが昭和31229日の衆議院内閣委員会における鳩山総理大臣の答弁(船田防衛庁長官代読)では、「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」としており、以降もこれを否定する政府見解は為されていない。

 このため、政府見解同士の間で矛盾が生じているとも解釈できてしまうのである。この矛盾を解消するために、ここでは森清衆議院議員提出憲法第9条の解釈に関する質問主意書に対する、昭和60927日の答弁書における「一般に」という文言について考える必要がある。

 広辞苑第六版(岩波書店2008,2009)によれば、「一般」とは「少数の特殊例を除いて成り立つ場合にも使う」とある。即ち「武力行使の目的をもって自衛隊を他国の領土、領海、領空に派遣すること」が「憲法上許されない」ということについて、一切の例外が否定されているわけではないとも読めることになる。

 そしてこの「少数の特殊例」の一例が「誘導弾などの基地をたたくこと」であると解釈するならば、政府見解の間に存在する矛盾は解消される。よって自衛隊が我が国を防衛することを目的とした他国領域内への派遣は、現在のところ「攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り」において「基地をたたくこと」を除いた場合にのみ憲法上許されていないと解するべきであろう。

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