・核兵器 (以下、爆弾の解説は文林堂「最新版 世界のミサイル・ロケット兵器 ICBMからロケットランチャーまで」p44-46の該当項目より引用)
 核兵器は原子爆弾と水素爆弾、及び中性子爆弾の三種類に大別することができる。
原子爆弾
 原子爆弾は核分裂を利用している。1つの核物質(ウランあるいはプルトニウム)の原子に中性子をぶつけると2つに分裂し、そのとき2つの中性子とエネルギー(32ピコワット)を放出する。放出された中性子はさらに他の原子に衝突して同じ反応を繰り返し、その反応は連鎖的に繰り返されることで膨大なエネルギーが放出されることになる。これを核分裂の連鎖反応というが、反応は100万分の1秒という短時間で怒り放出されるエネルギーは0.45kgのウラン235で36兆ワット以上になるともいわれている。
  ウラニウムやプルトニウムは特定の条件の下で一定量にまとまると自然に核分裂を起こす性質があり、これを臨界といい、その量を臨界質量という。核爆弾ではこの性質を利用し、核物質をいくつかに分けて爆弾に入れておき、使用時に爆薬を使ってそれらを急激にひと固まりにすることで臨界量に到達させ核分裂を起こさせている。 通常、使用される核物質はウラン235あるいはプルトニウム239で、前者は構造が単純な砲身型に使用される。これは爆弾の内部の砲身上の物体に臨界質量の半分に分けたウラン235を離して置き、TNT爆薬の爆発力で両者を一体にすることで核分裂を起こさせるもの。
 一方、後者は爆縮型の爆弾に使われる。中空の球にしたプルトニウム239(球の中心の中空部には核分裂の連鎖反応を起こすきっかけになる中性子源のイニシエーター=点火物が置かれている)を中心に置いて周囲を球状のウラニウムのタンバー(核物質に被い被せる中性子反射材のことで、これにより林藍質量を小さくできる)で被い、さらにその周囲を被っているTNT爆薬を同時に爆発させ、衝撃波で急激に内側に圧縮し、タンバーおよびプルトニウム球、中心のイニシエーターを凝縮させることで密度を高め臨界質量に到達させ、核分裂を起こす構造の爆弾だ。当然ながら爆縮型のほうが構造が複雑で開発も難しいが効率がよく爆発力も大きい
水素爆弾
 原子爆弾が核分裂を利用しているのに対し、水素爆弾(核融合爆弾)は核融合を利用している。核融合というのは元素の原子核同士が融合して他の元素の原子核になる作用のこと。水素のような軽い元素の融合でも重い元素の核分裂反応を上回る大きなエネルギーを出すことができる。 核融合には様々な方法が考えられているが、もっとも反応させやすく実用性が高いといわれているのが重水素(デューテリウム)と三重水素(トリチウム)を用いた反応(D-T反応)で、水素爆弾に使われている他、核融合炉での利用も考えられている。
 この反応で放出されるエネルギーは核分裂の場合に比べて小さいが、原子自体が小さいので同量の核分裂物質の放出するエネルギーの総量に比べると数倍のエネルギーが得られることになる。また反応で放出される中性子もウラン238の原子核を分裂させるほど高いエネルギーを持っており、しかも各癒合反応では核分裂のように臨界質量に関する危険がない。  実際の水素爆弾の構造は公表されていないので正確なところは分かっていないが、今日推測されている構造は次のようなもの。核融合を起こすには非常な高温(摂氏1億度程度)が必要で、これを得るために始めに原子爆弾が使われる。
 原子爆弾を起爆させその核分裂反応で放出されるX線、γ(ガンマー)線などで核融合燃料(重水素と三重水素、あるいは重水化リチウム)を加圧して核融合を起こす(正確には核融合燃料や中心のスパークプラグが加圧され、スパークプラグが核分裂を起こすことで核融合が始まる。水素爆弾の図参照)。この核融合により放出される高速中性子がウラン合金製のタンバー(核融合燃料となる部室を包んでいる核物質)に核分裂を起こさせ、最終的に爆弾が爆発するのである。
 水素爆弾の核出力の大部分はタンパー部分の核分裂のエネルギーによって得られるといわれており、この部分の臨界質量の問題から核爆弾の大きさには制限があった。しかし技術改良により臨界質量以上のタンパーを作れるようになったことから爆弾の破壊力は増大している。  今日、ICBMの弾頭に搭載されているのは水素爆弾であり、水素爆弾を実用化しているのはアメリカ、ロシア(旧ソ連)、イギリス、フランス、中華人民共和国だけ。
中性子爆弾
 核兵器の最初の段階であった原子爆弾は強力な破壊力を持っていたが、同時に核分裂の破片が「死の灰」となって広範囲にまき散らされることから容易には使えなかった。そこで爆弾の破壊力をそのまま(あるいはそれ以上)にして「死の灰」を減らすことをめざして開発されたのが水師爆弾であった(しかし核融合を起こすのに原爆を使用するのである程度の「死の灰」は残ってしまう)。しかもこれらの爆弾は使用された地域をすべて破壊しつくしてしまい長時間に渡って放射能が残留するので、被爆直後にその地域を活用したり軍が進駐することができない。
 そこで爆発による建物などの破壊をできるだけ減らし人間だけを死傷させ、放射能も短時間しか残留しない核兵器として開発されたのが中性子爆弾であった。  この爆弾は破壊力や放射能の残留時間を短くするために、可能なかぎり少ない臨界質量の核物質で核分裂を起こし、水素化合物を融合するようになっている。そして通常の核爆弾の持っているタンパー部分をなくす(実際にはクロムやニッケルなどを使い中性子の反射を減らしたものを使っている)ことで、核融合で放出された中性子をそのまま待機中に飛び出させて生物の殺傷力を高めている。中性子爆弾では爆風や放射熱は爆弾の全エネルギーの20パーセント程度だが放射線は80パーセントにも及ぶ。
 大量の中性子線を放出することで人間を死傷させるが、中性子はすぐに大気中に吸収されてしまうので中性子線は爆発後短時間で散ってしまい、残留する放射能が少ない。そのため爆弾を使用した地域も短時間で活用できるというわけだった。当然ながら中性子爆弾は限定された地域に使用し破壊力も小さいのでSRBM(短距離弾道ミサイル)や核砲弾として配備されていた。  中性子爆弾の威力はどの程度のものだろうか。
 一説によると、1キロトン(kT)クラスの中性子爆弾(TNT火薬1,000トンの威力に相当する)を地上120mで爆発させると、爆心から半径120m以内のものはすべて完全に破壊され(人間も即死、一方これ以上の距離にある建物は破壊されない)、半径800mまでに人間は5分以内に死亡、さらに半径900mでは5分以上生き延びるが機能障害を起こして最大でも1週間以内に確実に死亡、距離1,200mでは生存者もいるが大部分の人間は機能障害から死亡する。しかし半径2,000m以上では多少の被爆は起きるが生命に影響はない、といわれている。
 次に、我が国における核兵器の保有の可否に関して述べている政府見解を以下に列挙する。以下、斜線部は朝雲新聞社「防衛ハンドブック2011」p659-661より引用。
昭和53年3月11日参議院予算委員会
真田法制局長官答弁
一 政府は、従来から、自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは憲法第9条2項によっても禁止されておらず、したがって、右の限界の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは同項の禁ずるところではないとの解釈をとってきている。 二 憲法のみならずおよそ法令については、これを解釈する者にとっていろいろの説が存することがあり得るものであるが、政府としては、憲法第9条第2項に関する解釈については、一に述べた解釈が法解釈論として正しいものであると信じており、これ以外の見解はとり得ないところである。 三 憲法上その保有を禁じられていないものを含め、一切の核兵器について、政府は、政策として非核3原則によりこれを保有しないこととしており、また、法律上及び条約上においても、原子力基本法及び核兵器不拡散条約の規定によりその保有が禁止されているところであるが、これらのことと核兵器の保有に関する憲法第9条の法的解釈とは全く別の問題である。
昭和53年4月3日参議院予算委員会
真田法師局長官答弁
 ………核兵器の保有に関する憲法第9条の解釈についての補足説明を申し上げます。
一 憲法上核兵器の保有が許されるか否かは、それが憲法第9条第2項の「戦力」を構成するものであるか否かの問題に帰することは明らかであるが、政府が従来から憲法第9条に関してとっている解釈は、同条が我が国が独立国として児湯の自衛権を有することを否定していないことは憲法の前文をはじめ全体の趣旨に照らしてみても明らかであり、その裏付けとしての自衛のための必要最小限度の範囲内の実力を保持することは同条第2項によっても禁止されておらず、右の限度を超えるものが同項によりその保持を禁止される「戦力」に当たるというものである。
  そして、この解釈からすれば、個々の兵器の保持についても、それが同項によって禁止されるか否かは、それにより右の自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるか否かによって定まるべきものであって、右の限度の範囲内にとどまる限りは、その保有する兵器がどのような兵器であるかというこは、同項の問うところではないと解される。   したがって、通常兵器であっても自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるものは、その保有を許されないと解される一方、核兵器であっても仮に右の限度の範囲内にとどまるものがあるとすれば、憲法上その保有が許されることになるというのが法解釈論としての当然の論理的帰結であり、政府が従来国会において、御質問に応じ繰り返し説明してきた趣旨も、右の考えによるものであって、何らかの政治的考慮に基づくものでないことはいうまでもない。
二 憲法をはじめ法令の解釈は、当該法令の規定の文言、趣旨等に則しつつ、それが法規範として持つ意味内容を論理的に追求し、確定することであるから、それぞれの解釈者にとって論理的に得られる正しい結論は当然一つしかなく、幾つかの結論の中からある政策に合致するものを選択して採用すればよいという性質のものではにことは明らかである。政府が核兵器の保有に関する憲法第9条の解釈につき、一に述べた見解をとっているのも、右の法解釈論の原理い従った結果であり、何らかの政治的考慮を加えることによりこれ以外の見解をとる余地はないといわざるを得ない。
三 もっとも、一に述べた解釈において、核兵器であっても仮に自衛のための必要最小限度の範囲内にとどまるものがあるとすれば、憲法上その保有を許されるとしている意味は、もともと、単にその保有を禁じていないというにとどまり、その保有を義務付けているというものでないことは当然であるから、これを保有しないこととする政策的選択を行うことは憲法上何ら否定されていないのであって、現に我が国は、そうした政策的選択の下に、国是ともいうべき非核三原則を堅持し、さらに原子力基本法及び核兵器不拡散条約の規定により一切の核兵器を保有し得ないこととしているところである。   以上でございます。
昭和57年4月5日参議院予算委員会
角田法制局長官答弁
 核兵器と憲法との関係については、これまで再々申し上げておりますが、基本的に政府は自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは、憲法第9条2項によっても禁止されておらない。したがって右の限度の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わずこれを保有することは同項の禁ずるところではない、こういう解釈を従来から政府の統一見解として繰り返して申し上げているところであります。したがって、核兵器のすべてが憲法上持てないというのではなくて、自衛のため必要最小限度の範囲内に属する核兵器というものがもしあるとすればそれは持ち得ると。ただし非核三原則というわが国の国是とも言うべき方針によって一切の核兵器は持たない、こういう政策的な選択をしている、これが正確な政府の見解でございます。
 なお何を以って「核兵器」とするかについては、昭和33年4月15日の参議院内閣委員会における提出資料で以下のように定義された。
ア、核兵器とは、原子核の分裂又は核融合反応により生ずる放射エネルギーを破壊力又は殺傷力として使用する兵器をいう。 イ、通常兵器とは、おおむね非核兵器を総称したものである。 従って (1)サイドワインダー、エリコンのように核弾頭を搭載できないものは非核兵器である。 (2)オネストジョンのように核・非核両弾頭を装着できるものは、核弾頭を装着した場合は核兵器であるが、核弾頭を装着しない場合は非核兵器である。 (3)ICBM、IRBMのように本来的に核弾頭が装着されるものは核兵器である。
解説
サイドワインダー……赤外線誘導の対空ミサイル。
エリコン……エリコン社の20mm機関銃と思われる。自衛隊ではアメリカ軍の「タコマ」級フリゲート18隻を貸与された「くす」型警備船(1954年に警備艦、1960年に護衛艦と改称)などが装備していた。
オネストジョン……1954年から1982年まで米軍が運用した、核弾頭を搭載可能な地対地ロケット。射程距離は後期型のMGR-1Bで最大40km。
ICBM……大陸間弾道ミサイルの略称。戦略兵器制限交渉(SALT)では有効射程5500km以上の弾道ミサイルと定義されており、アメリカのミニットマンやロシア(旧ソ連)のトーポリ、中国の東風31号等が該当する。
IRBM……中距離弾道ミサイルの略称。大陸間弾道ミサイルと異なり明確な定義は存在しないが、おおむね射程距離が3000kmから5500kmまでの弾道ミサイル。
 以上の政府見解から考えるに、少なくとも憲法上は、我が国が核兵器を保有するにあたっての問題は存在しない。核兵器不拡散条約から脱退し、原子力基本法の改正を行えば、現行憲法下においても核兵器の保有は可能だということになる。
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