専守防衛とは何か

 自衛隊による我が国の防衛に関しては、その基本方針を示す言葉としてしばしば「専守防衛」という言葉が用いられる。そこでこの「専守防衛」という言葉がどのような意味を持つのか、そして専守防衛を基本とした場合に、我が国の防衛及び自衛隊の行動に対してどのような制約を与えるのかということについて考察する。

昭和471031日衆議院本会議

田中総理答弁

 専守防衛ないし専守防御というのは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行うということでございまして、これはわが国防衛の基本的な方針であり、この考え方を変えるというとは全くありません。なお戦略守勢も、軍事的な用語としては、この専守防衛と同様の意味のものであります。積極的な意味を持つかのように誤解されない──専守防衛と同様の意味を持つものでございます。

昭和56319日参議院予算委員会

大村防衛庁長官答弁

 専守防衛とは相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その防衛力行使の態様も自衛のための必要最小限度にとどめ、また保持する防衛力も自衛のための必要最小限度のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうものと考えております。これがわが国の防衛の基本的な方針となっているものでございます。

 また、政府といたしましては、この専守防衛を基本として防衛力の整備を行うとともに、米国との安全保障体制と相まってわが国の平和と安全を確保し、安保条約と相まって専守防衛をやっていくという基本的な考えを持っていることを、つけ加えさせていただきます。

 政府見解より、「専守防衛」を国防の方針とすることで、以下のことが禁じられると考えられる。

・相手の基地を攻撃すること

・武力攻撃を受ける前の武力行使

 しかし昭和471031日の衆議院本会議における田中角栄総理大臣の答弁中にある「防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行う」という部分は、昭和31229日の衆議院内閣委員会における鳩山総理大臣の答弁(船田防衛庁長官代読)における「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」という文言と矛盾してしまう。また後者の見解を覆す旨の見解が存在しないため、相反する政府見解が平行して存在しているようにも思える。

 とはいえ「専守防衛」は「わが国防衛の基本的な方針」としか述べられておらず、この方針に反する行動が必ず憲法第9条に違反すると明言されているわけではない。そのため敵基地攻撃は「専守防衛」という「防衛の基本的な方針」に反しているが、憲法違反の十分条件にはなり得ないと解釈すれば、何ら矛盾は発生しないであろう。

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